他人の私道に接する宅地の売買において、売主は、買主に対し当該私道の通行と掘削の承諾を取り付ける義務があるか。取り付けができなかった場合、売主の債務不履行として契約の解除原因になるか。
売主が私道の所有者から承諾の取り付けができなかった場合、買主が私道の所有者に対し、直接通行と掘削の承諾をするよう請求することができるか。このような事案の場合、媒介業者はどのように対応したらよいか。

事実関係

当社は、売主が他人の私道に接している宅地を2分割し、そのうちの1区画を売買する媒介をした。
その際、売主はその私道の所有者から、分割前の宅地について私道の通行と掘削の承諾を書面で取り付けていたが、分割にあたり、「自分にはあなたが売る買主に対し承諾書を交付する義務がないので、あなたからあなたに交付している承諾書のコピーでも渡しておいたらどうか」といわれたという。

質 問

1.  このような場合、売主にはその私道の所有者から、買主宛ての通行・掘削の承諾書を取り付ける義務があるか。
2.  書面での取り付けはともかく、売主に「承諾」の取り付け義務があるとした場合、その取り付けができなかったときは、売主の債務不履行として契約の解除原因になるか。
3.  売主が、私道の所有者から買主に対する私道の通行と掘削の承諾を取り付けることができなかったときは、買主が私道の所有者に対し、直接通行と掘削の承諾をするよう請求することができるか。
4.  このような事案の場合、媒介業者はどのように対応したらよいか。

回答

1.  結 論
 質問1.について ― 「承諾書」という書面で取り付ける義務があるとまではいえないが、少くとも「承諾」を取り付ける義務はあるといえる。
 質問2.について ― 売主と私道の所有者との間で、売主が宅地を分割し転売した場合には、その購入者に対し私道の通行や掘削を認めないという特約があるなど、私道の所有者がどうしても買主に対しその私道の通行等を認めないというのであれば、契約の解除原因になると解される。
 質問3.について ― 本件の事案においては、少くとも買主が売買物件の所有権者になった時以後においては、直接請求することができると解される。ただしその場合、ケースによっては、私道の所有者に対する対価の支払いが必要になる場合があると解される。
 質問4.について ― 本件の場合は、媒介業者として、私道の所有者に対し、「なぜ売主には承諾書が発行できて買主には発行できないのか」という理由を確認し、もし売主と私道の所有者との間に上記回答(2)にあるような事情がなければ、いずれは買主も宅地の所有者になるのであるから、売主が私道の所有者に対しそのための承諾料を支払ってでも、買主宛ての「承諾書」を発行してもらうように対応すべきであろう。
2.  理 由
〜⑷について
売主は、その2分割した土地の売買にあたり、少なくともその土地の引渡しの時までに、買主に対し、私道の所有者から私道の通行と掘削に関する承諾を取り付けておく義務がある。なぜならば買主に対し、買主がその私道を通行したり、家を建てる際の水道管等の埋設のための私道の掘削承諾が得られていなければ、買主は工事ができず、土地を購入した目的を達し得ないということが考えられるからである。
したがって、もし買主が土地の引渡し後においても私道の所有者からそれらの承諾が得られず、訴訟等の法的手続によらなければ承諾が得られないというようなことにでもなれば、いかに付随義務とはいえ、もはや買主は契約の目的を達し得ないということで、契約の解除原因になると解されるからである。
なお、本件の私道が開発分譲あるいは土地の切り売りに伴う道路である場合には、その私道に面している宅地の所有者には通行地役権が設定されていると考えられるケースもあるので(後記【参照判例】参照)、通行そのものができないというケースは少なく、要は、その維持管理や税負担のための負担金(承諾料)いかんということが多いと考えられるからである。

参照判例

 私道敷の所有権を分譲者が留保した場合に通行地役権が設定されたとみるもの。
中野簡判昭和39年2月24日判時370号41頁
東京高判昭和49年5月9日東京民時報25-5号89頁
神戸簡判昭和50年9月25日判時809号83頁
名古屋地判昭和57年8月25日判時1065号161頁
東京地八王子支判平成元年12月19日判時1354号107頁

監修者のコメント

宅地が私道に接し、その私道を利用しない限り、通行や水道管・ガス管等の埋設ができないという場合は、売主は買主が当該宅地を円滑に利用できるよう私道所有者の承諾を取り付ける義務があるというべきであろう。たとえ、売主には私道利用を認めながら、買主には認めないということが、私道所有者の権利濫用として認められないとしても、そのような紛争可能性のある土地を売却したことになる。承諾の書面はともかく、承諾が得られないことが最初から分かっていたのであれば、通常人・一般人はその土地を買わないであろう。ということは、売主は契約前にそのことを告げる義務があり、買主が承諾を得られないことを承知して買ったのではない限り、承諾を取り付ける義務が信義則上、売主にあると考えられる。最終的にも承諾が得られなかったときは、買主は回答のとおり契約の解除ができると解するのが妥当である。