「負動産」という言葉をご存じでしょうか。

「負」は負債の負。売りたいのに売れず、現金化できずに負債となった不動産のことです。マンションの場合、負動産は売れないだけではなく、持ち続けているかぎり管理費、修繕積立金、固定資産税などの金銭的な負担も所有者に重くのしかかってきます。

私はマンション管理士として約15年ものあいだ、1000棟にも及ぶさまざまなマンションに携わってきました。私は中古マンション=「管理の集大成」だと思っています。

典型的な残念なマンションとは

売れない、貸せない――。立地や設備、規約、築年数、価格など、「負動産」マンションになってしまう要因は実にさまざまですが、居住者が住む部屋の「専有部分」以外で考えても、エントランスやエレベーター、廊下などの「共用部分」にそのほころびが出ていることが少なくありません。「共用部分」が残念なマンションの典型例をいくつかご紹介しましょう。

① 清掃が行き届いていない

エントランスの照明にクモの糸が絡まっていたり、蛍光灯がチカチカしていたり。あるいは、床に砂ぼこりがたまっていたり、汚れが目立ち掃除が行き届いていなかったり。もしそうなら、築年数による建物や諸設備の劣化だけではなく、日常清掃や定期清掃、巡回点検などの日常管理ができていないマンションです。

日常管理ができていないと、マンションの印象が悪く、購入予定で見学に来た方にもマイナスの印象を与えます。清掃の出来具合は、衛生面への影響だけではなく、資産価値にも及びます。

② マンション内の植栽が枯れている

植栽はマンションの顔ともいえる正面玄関などにあって目立ちます。植栽の状況で管理の良し悪しを判断されることがあります。花壇や樹木など四季折々の景観は、マンションの魅力にも直結します。

行き届いた植栽管理は、緑と花で環境を豊かにし、居住者の暮らしの快適性・コミュニティーを活発にし、管理組合運営の円滑化にも貢献するとされています。目につきやすい植栽の手入れが行き届いていないマンションは、資産価値を損なっています。

③ エレベーターがない

「マンションにはエレベーターが必要」と感じている住民が大半です。エレベーターがないと、スーツケースや飲料水など重いものを運ぶ際に不便ですし、高齢などで足腰が弱い方だと外出すらおっくうになり、健康面にも影響します。また、引っ越し時には料金が割り増しになることも。

主に築古マンションの場合、4階建てまでの建物でエレベーターがないことが多いのですが、「ない」というだけで需要が減ります。また、あったとしても、地震・火災・停電などの非常時、エレベーター内部の乗客が安全に外に避難できるよう、最寄り階に自動停止する「地震時管制運転装置」などの制御装置が付加されていないと価値が低いといえます。

さらに高齢社会やバリアフリーの観点から、段差を解消するためにスロープをつけるマンションも増えています。そもそも住宅は地面より高く造るのが基本なため、段差やステップができやすいのですが、容積率の緩和などでエントランスが半地下になっているマンションなどは、スロープをつけることにより、足腰の弱い人や車イスが通りやすくなります。

マンションに段差があり、スロープや昇降機(段差解消機)などの対策がとられていない場合も、これからの時代に対応していません。

防犯面、共用施設の有無

④ オートロックや防犯カメラが設置されていない

マンション住まいのメリットに防犯面があります。例えば、最新のマンションでは、エントランスにインターフォンとオートロック、エレベーターやエレベーターホールなどは非接触キーで解錠しないと入れないなど、二重、三重、四重ものセキュリティが当たり前になってきています。また管理員やコンシェルジュ、夜間は警備員と機械警備の併用など、24時間の有人管理もされています。

今や標準的なマンションでも、オートロックや防犯カメラが設置され、不審者の侵入防止と抑止効果のため映像は一定期間ハードディスクに記録されていることが多くなっています。逆に言えば、防犯面へのバロメーターともいえるオートロック施錠や防犯カメラが設置されていないマンションは、資産価値の観点からマイナスといえます。

⑤ プールや温泉施設、カフェなど華美な施設がある

バブル期に建てられた、郊外型高級マンションをはじめ、近年のタワーマンションや都心部の大規模マンションには、このような共用施設が多く見受けられます。

プールや温泉施設などは、機械式駐車場と同じように将来にわたり修繕費などの維持費が大幅にかかる施設とされています。特に戸数が少ない場合、1戸あたりの負担が大きく管理費等の値上げや一時金などを負担する可能性も。華美な施設には、バーラウンジやエスカレーターなども該当します。もし住民の利用率が低く、マンションの資産価値を上げるような特徴的な施設や設備でないのであれば、将来的に負担ばかりが増大します。

⑥ 受水槽がある(直結給水方式ではない)

これまで多くのマンションの給水方式として採用されてきたのが、「受水槽給水方式」です。各自治体の水道から供給された水をいったん建物内の受水槽にためてから、増圧ポンプや高架水槽を介して各住戸に配水しています。10トン超の受水槽の場合は、年1回以上の水質検査と清掃が法律で義務づけられています。

しかし最低、年1回の清掃でいいため、基準範囲とはいえ汚れが目立つ受水槽も見受けられます。そこで最近では、東京都、横浜市、さいたま市をはじめ、多くの自治体が受水槽を介さずに水道の配水管内の水圧を利用して給水する「直結給水方式」が推奨されています。

この方式では受水槽の設置スペースが不要なだけでなく、受水槽給水方式と比べて、衛生管理面での負担が軽減されます。受水槽給水方式は、すでに新築マンションでは見られなくなった方式です。マンションに受水槽がある場合、清掃や給水方式の変更コストがかさみます。

⑦ 鳥類などの動物被害が発生している

鳥類(ハトやカラスなど)による騒音、フン害、威嚇、襲撃などといった人への危害、ゴミ置き場荒らしなどの被害。また野良猫の被害やマンション内のハチの巣――。これらもマイナスポイントです。

鳥類は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」によって保護されているめ、鳥害対策は、鳥の習性に応じて鳥を寄せ付けない、巣を作らせない、といった予防が対策の中心となります。このような動物被害が長期化すると安全・安心・快適に住めないばかりか、ベランダに防鳥ワイヤーの設置、防鳥ネットを張る、廊下には剣山タイプのプロテクターを設置するなど、景観も悪くなり、資産価値にも影響します。

空室が多いとトラブルのもとに

⑧ 賃貸住戸や空室が20%を超えている

一般的に分譲賃貸は、賃貸用マンションと比較すると耐震性や防音性など構造がしっかりしていて、食洗機やディスポーザー、床暖房などの設備、パーティールームなどの共用施設が充実しているため、人気があります。

しかし、長期間(目安として3カ月以上)にわたって空いている部屋が多いということは、人が住みにくいマンションである可能性があります。平成25年度マンション総合調査結果(国土交通省)によると、賃貸戸数割合が20%を超える割合は、築古ほど高くなる傾向にあります。

賃貸住戸や空室が多い場合、理事(役員)のなり手が足りず管理不全のきっかけとなる、管理費等の滞納が起きやすくなる、ひどい場合はスラム化する可能性も。また賃貸人と所有者ではマナー意識の違いから、ゴミ問題などが生じる可能性もあります。

⑨事務所使用や民泊をしている住戸がある

本来、専有部分はそれぞれの区分所有者が好きな用途として使用することができるのですが、1つの建物を多くの人で利用するため、それぞれのマンションの管理規約において「その専有部分をもっぱら住宅として使用するものとし、ほかの用途に供してはならない」という用途制限を明確にしているのが一般的です。

共用部分は負動産マンションかどうか見極める要素

2018年6月にスタートした民泊新法(住宅宿泊事業法)対応として、民泊を禁止する場合、管理規約を「区分所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない」と改定しているマンションが増えています。

もし住居専用マンションにもかかわらず、事務所使用や不特定多数が出入りする店舗(例えばマッサージ店やネイルサロン)、民泊など、住宅以外の用途として使用されている場合は、管理規約違反です。

マンションに不特定多数の出入りが続くとトラブルや事件に発展する可能性もあります。一度、事務所や店舗、民泊として使用され始めると利用状況の把握や利用禁止にするのが難しく、治安の悪化などにもつながりかねません。管理の甘さの積み重ねは、資産価値の減少につながります。

このほかにも騒音やリフォームをめぐるトラブルでもめていたり、外国籍の住民が多かったり、理事のなり手がいない、大規模修繕工事が行われていないなど、専有部分を除いても負動産マンションを見極める要素はあります。

これを売れる、貸せる「富動産」にするか、あるいは諦めて売ってしまうかを判断するためにも、専有部分はもちろん共用部分における現状把握は、資産価値と居住価値を考えるうえで重要なポイントなのです。

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